技術解説
測器補正係数算出のための風向風速計の比較試験

 はじめに
架空送電線の建設ルートは急峻な山岳地など実に様々な地形を通過しています。
 設備の耐風性や絶縁協調を考える上において、また、送電設備の健全な維持管理のためにも、建設地点の強風の発生状況を把握することは重要であり、現地における長期観測により、必要なデータの収集を計ることが行われています。
 近年では、送電用支持物の風荷重の検討において、従来の10分間平均風速をベースした設計手法に代わり、気象庁の保有する最大瞬間風速を利用する方法も提案されてきています。
 しかし、両者とも観測方法および観測技術の進歩に伴い、風速計の型式や記録計のデジタル化が進んでおり、風速計の応答性や記録方式の違いなどから得られる風速値が異なっていることが考えられます
 そこで、過去や現在に観測が行われている地点から得られる観測データを評価するために、風速データの基準化に必要な補正係数を求めることを目的として、自然風における比較試験を行いました。

 試験期間および場所
1997.10月〜1998.10月まで実施。 
栃木県奥日光:山王峠:この地点は、標高1730mに位置し、周りを2000m級の山々に挟まれ、風は主に北西から西方向に開放された谷すじを通って吹きます。(画像をクリックすると拡大します)


  方法
 表1の測定原理・記録方式などが異なる5種(A〜E)の風速計を、8mと12mの高さに設置し、測定を行いました。
 得られたデータのうち、各機器や観測タワーの干渉を受けない風向での10分間平均風速と同最大瞬間風速について比較を行いました。

  表1. 試験機器の仕様概要
外形 風速測定原理 プロペラ材質 記録方式 備考
A 超音波型 超音波パルス デジタル(0.3 秒サンプリング)
B 風車型1 光電パルス 合成樹脂 デジタル(0.25秒サンプリング) 気象庁JMA95型を模擬
C 風車型2 光電パルス 金属 デジタル(0.25秒サンプリング) 気象庁JMA80型を模擬
D 風車型3 交流発電 金属 デジタル(1.0 秒サンプリング)
E 風車型4 直流発電 金属 自記紙による アナログ記録
赤字は各風速計の主な特徴

 結果
 観測期間中に発生した台風(98年に発生した台風7号と10号)により、最大風速27.6m/s、最大瞬間風速46.0m/sを記録しました。

T.平均風速の比較

 「風速計B」(気象庁JMA95型の模擬)を基準に考え、超音波風速計と比較した場合、Aの超音波風速計の値の方が若干高めに記録されていますが、その他の風速計も含めて、ほぼ同じで風速比で0.97〜1.03の範囲にあります。 特に10m/s以上の風速域においてはほぼ1:1に対応しています。


U.瞬間風速の比較
 風速計の応答特性の影響が強く、風車型風速計より超音波風速計の方が応答性が優れ、風車型ではプロペラの材質に金属が使用されている「風速計C」よりも合成樹脂の「風速計B」の方が軽量なため応答性が高いと言えます。
 「風速計C」と自記式が同じなのは風速計自体の応答性は変わらないため、記録計がデジタルかアナログかの違いに対して、今回使用したアナログ記録計は電圧計にサイフォンペンを直結したタイプなため、アナログ記録計でも応答性が高かったためと考えます。 また、「風速計D」が他に比べ小さいのは、交流発電電圧を直流に変換するための整流回路の時定数が影響したものと考えられます。


V.乱れの強さについて
 風の乱れ別にも風速の比較を行いましたが、同様な傾向が得られています。


補正係数表
 「風速計B」(気象庁JMA95型の模擬)を基準(=1.00)として、平均風速・最大瞬間風速について他の風速計風速値の補正係数を算出した結果、以下のような値となりました。
  表2.
比較試験結果
  外形 平均風速比 最大瞬間風速比  平均時間
2〜5秒の
突風風速に
対する比率
備考
A 超音波型 1.03 1.09 1.00 1.20  
B 風車型1 1.00 1.00 0.92 1.10 気象庁JMA95型を模擬
C 風車型2 0.97 0.96 0.88 1.06 気象庁JMA80型を模擬
D 風車型3 0.97 0.93 0.85 1.03  
E 風車型4 1.00 0.96 0.88 1.06  


 まとめ
 風速測定原理・プロペラの材質・サンプリング間隔・記録方式等の仕様の違いにより、多少ではありますが、風速値に違いがあることがわかりました。(⇒仕様の違いによる特徴の検討)

 これまでは「風速計B」を基準として風速比の比較を行ったが、例えば送電用支持物の設計においては、2〜5秒の平均化時間による風速が用いられており、そのため観測データを利用するにあたり基準測器に対する補正係数が必要となります。
 したがって、この表に示す係数を使って当該風速計の瞬間風速を除すれば2〜5秒の突風風速に変換することができます。
(平成11年電気学会全国大会にて発表。)

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